相続財産には積極財産(プラスの財産)と消極財産(マイナスの財産)があります。簡単に言うと、積極財産は土地や預金など相続人の利益になるもので、消極財産は借金など相続人の不利益になるものです。積極財産だけ全部相続して、消極財産は一切相続しないといったことはできません。相続する以上は、積極財産と消極財産の両方を相続することになります。相続人はこのことを考えて、相続するのか放棄するのかを決めなければなりません。
1) 単純承認
単純承認すると、被相続人の権利義務を無限に承継します。消極財産があれば、相続分の割合に応じて承継するので、相続人は返済義務を負うことになります。一般に「相続する」というのは、単純承認のことです。
2) 法定単純承認
一定の場合に、自動的に単純承認したものとみなされることがあります。これを法定単純承認といい、民法921条で定められています。法定単純承認とされるのは、次のとおりです。
?@相続人が相続財産の全部または一部を処分(保存行為等は除く。)したとき。
?A相続人が熟慮期間内(相続の開始があったことを知ったときから3ヶ月以内。)に限定承認または相続の放棄をしなかったとき。
?B相続人が、限定承認または相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部もしくは一部を隠匿し、私的にこれを消費し、または悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったとき。

被相続人の持っていた宝石や衣類などを安易に形見分けすると、法定単純承認とみなされ、自動的に債務まで無限に承継することにもなりかねないので、注意してください。
3) 限定承認
相続によって得た財産の範囲内で、被相続人の債務を負担するという条件付きの承認を限定承認といいます。簡単に言うと限定承認すれば、相続財産で払える分だけ被相続人の借金を返済して、残った被相続人の借金を相続人自身の財産からは払わなくてよくなります。また、被相続人の借金を返済しても相続財産が残るようならば、残った相続財産を相続人が相続します。相続財産の方が多いのか、借金の方が多いのか、わからなければ、限定承認をするのが安全です。ただし、相続財産の範囲内では返済義務もありますし、強制執行される可能性もあります。

限定承認をするには、熟慮期間内に相続財産目録を調整し、家庭裁判所に相続限定承認申述書を提出しなければなりません。相続財産目録には、不動産、動産、預金、債務などを正確に全部記載します。記載漏れなどがあった場合は、法定単純承認とみなされることもあるので注意してください。また、相続財産の調査に時間がかかるときは、家庭裁判所に熟慮期間を3ヶ月伸長請求することもできます。

家庭裁判所で申述書が受理されたら5日以内に、相続債権者などに限定承認したことなどを公告しなければなりません。
限定承認すると家庭裁判所は相続人の中から相続財産管理人を選任して、相続財産の清算手続きを行わせます。

相続人が複数いるときは、相続人全員が一致しないと限定承認できません。1人でも単純承認すると、他の相続人は限定承認できなくなります。このような場合に、相続人が被相続人の借金を負わないようにするには、単独で相続放棄の手続きをするしかありません。また、相続人の中の1人以上が相続放棄をしたときは、他の相続人全員が一致すれば限定承認できます。
積極財産も、消極財産も、全ての財産の相続を全面的に拒否することを相続放棄といいます。相続放棄をすれば、最初から相続人ではなかったとみなされます。そのため、相続人が相続放棄をすると代襲相続はできません。また、代襲者が相続放棄すると再代襲相続はできません。

相続放棄は、熟慮期間内に相続人が単独で家庭裁判所に相続放棄申述書を提出することによって行います。相続人が制限能力者の場合には、法定代理人が当該制限能力者のために相続の開始があったことを知ったときから3ヶ月以内に行います。なお、熟慮期間は家庭裁判所に伸長請求することもできます。
家庭裁判所は、相続放棄が本人の意思であることを確認して、受理します。1度受理されると、簡単には取り消せないので注意してください。